巳巳展×外山文彦展 2022-Gallery YUYAMA
DMに使われた画像について
-建築家・前川國男に対しての2人の作品制作と、そこに見える差異-

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DM/design:アトリエZen


本展のDMに使われた作品画像は、外山文彦、巳巳とも、かつて東京都美術館に展示された作品である。それぞれ異なる時期に、東京都美術館のメインギャラリーに設置された。巳巳は2021年ギャラリーA(2012年の大改修以前は大彫塑室と呼ばれ、彫塑の展示場だった)に、外山は2004年ギャラリーB(当時は第二彫塑室と呼ばれていた)に展示した。

都美術館のメインギャラリーは、壁はハツリを施されたコンクリートで、床は微妙に色合いの異なる茶色のタイルで覆われている。また、ギャラリーA(大彫塑室)は天井の高い大空間で、一番大きな壁には、人が立って会場を見下ろすための出っ張った台(以下「展望台」)がある(2012年にここへの通路が閉鎖され今は利用不可)。ギャラリー空間によくある「白い壁にグレーの床」とは様相が異なり、癖が強く作品を展示しにくい場所である。
この場所は美術館の設計者である日本近代建築の創始・前川國男の「巨大な近代建築を人間的なものにする」という考えのもとにつくられた。無機的な空間ではなく、人が居て居心地よい場所にしようとディテールにこだわった結果である。この癖の強いギャラリー空間に対し、作家はこれを無視して作品を作るかそれとも取り込んで作るのか、大きく二択となるが、外山も巳巳も後者であった。

外山は、床のタイルにあわせて作られた赤・青・グレーの金属板を、縦横に配置した。床にベタ置きしてあるものもあり、少し高さをつけて置かれたものもある。タイルの縦横のリズムに呼応して展開するような風景をつくっている。(原風景vol.Ⅻ 2004年)
巳巳は、「展望台」に立つ人は観客に下から見られる「生きた彫塑」となると考え、近代建築に人間を回復させるための前川國男の実験的な試みであったという仮説を立てた。「展望台」の下にそのサイズに合わせて直方体をつくり、そこにその説を書き綴った。(都美セレクション グループ展・体感A4展 2021年)

このように外山は場所の構造や表象に対応する作品をつくり、巳巳は場所の歴史や意味にこだわる作品をつくる。 本展においてもそのアプローチの仕方は変わっていない。


[東京都美術館での2人の作品]


外山文彦 「Landscape」 2004年・東京都美術館

前川國男設計の、美術館建築としてきわめて特徴的な「床タイル」に着目し、タイル幅に合わ せて赤や青、透明塗料等を塗り分け、建築家に対しコラボレーションを図った作品。
このタイ ルの貼り方、色調は、同じく前川がその後設計した新潟市美術館に於いても踏襲されているこ とから、前川自身思い入れのあった手法と思われる。 この外山作品は当時新潟日報文化欄でも取り上げられ高く評価された。(2004年9月4日朝刊)


巳巳 「近代建築とA4と人間をめぐる論考」2021年・東京都美術館
その制作風景

巳巳は、こちらも建築として特徴的な「展望台」に焦点をあて、論考した仮説をその下部に設けた直方体の三方に書き綴った。
現在の美術館ではそこへの導線も閉ざされ、前川の意図した設計思想も一般に伝わり辛くなっているなか、展望台としてスポットをあてた“作品”として注目された。

……

[付記] 外山文彦のDM画像/その撮影に関して
外山の画像撮影は、ギャラリー湯山2021年度の展覧会が完了した直後、雪が深くなると立ち入りが出来なくなる冬の到来前のわずかの間を狙っておこなわれた。ギャラリー湯山での企画展に際しDMに会場自身の様相も取り込みたいという、外山の意思によるものである。
素材の鉄板は上記2004年のものから抜粋、つまり同一のものが使われているが、ギャラリー湯山に設置するにあたっては会場特性への対応が肝要で、タテのラインを活かす組み変えと選択がなされた。撮影日程は当初半日の予定だったが、配置検討を含め納得のいくものにするため、2日かけての撮影となった。(撮影作業:2021年11月8日、11月14日)

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